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AIが数学の未解決問題をどんどん解いている、というニュースを最近よく目にします。
ところが同じAIに時計の写真を見せて「今何時?」と聞くと、4回に1回ぐらいしか当たらない。
なんだかおかしな話です。この記事では、その理由と、そこから見えてくるAIの上手な使い方をお話しします。
AIはここまで数学を解けるようになった

まずは、AIがどれくらいすごいことをやっているのかを見てみましょう。
・2025年7月:国際数学オリンピックで金メダル級の成績(6問中5問正解)
・2026年1月:数学者エルデシュが残した未解決問題を証明
・2026年4月:数学が専門ではない23歳が、AIを使って60年来の難問を解決
・2026年5月:幾何学の「単位距離予想」の限界値を更新
・2026年7月:87年間解かれなかった「ヤコビアン予想」をくずす

ヤコビヤンってまずなに…?ポケモン?
一番話題になったのが、最後のヤコビアン予想です。
1939年に提唱されて、それから87年間、世界中の数学者が誰も解けなかった問題でした。
それをハーバード大学の研究者がAIと一緒に取り組んで、「この予想は成り立たない」という反例を見つけてしまいます。
しかもその答えは、たった216文字。
発表からわずか数時間で、世界中の数学者が「たしかに正しい」と検証を終えました。
さかのぼれば2024年には、タンパク質の形を予測するAI「AlphaFold」の開発者がノーベル化学賞を受賞しています。生物学で50年間解けなかった難題を突破したもので、いまでは190カ国、約200万人の研究者が使う定番ツールになりました。
それなのに、時計が読めない

ここからが本題です。
スタンフォード大学が毎年出しているAIの調査レポート「AI Index 2026」に、こんな一文があります。
「AIは数学オリンピックで金メダルを取れるが、アナログ時計が読めない」
エディンバラ大学の研究チームが、最新のAIにアナログ時計の写真を見せて時刻を答えさせる実験をしました。その正答率が、およそ25%。

得意不得意あるのって人間だけじゃないんや
テストされたのはGPT-4o、Claude、Geminiといった、どれも世界トップクラスのAIです。
ローマ数字の文字盤や秒針つきの時計になると、正答率はさらに落ちました。
カレンダーも苦手で、「今年の153日目は何曜日?」という質問の正答率は26.3%でした。
数学オリンピックで金メダルを取れるのに、小学校に入る前の子どもができることでつまずいてしまう。
不思議な話です。
この現象には名前がついている

スタンフォード大学は、この能力のかたよりを Jagged Intelligence(いびつな知能) と呼んでいます。
日本語では「ギザギザの知能」とも訳されます。
ある分野では人間を大きく上回るのに、別の分野では幼児にもかなわない。分野ごとの能力を並べてグラフにすると、なめらかな線ではなく、ギザギザに凸凹した形になるからです。
では、なぜこんなかたよりが生まれるのでしょうか。理由は3つあります。
理由①「考える」のは得意、「見る」のは苦手

AIが数学の難問を解けるのは、数学が記号と論理でできているからです。
数式は文字で書けますし、証明は理屈の積み重ねで進みます。これはAIが一番得意な「文章を処理する」という作業の延長線上にあります。
いっぽうアナログ時計を読むには、針の角度を測ったり、長さの違いを見分けたり、重なった針を判別したりする力が必要です。つまり、絵を見て意味を読み取る力です。
エディンバラ大学の研究者はこう言っています。「これが時計だと気づくのは簡単。でも実際に時刻を読むのは、まったく別の作業だ」
AIは考えるのは得意でも、見るのは苦手。
数学は「考える」仕事、時計は「見る」仕事。得意な土俵が違うわけです。
理由② 悪いのは「頭」ではなく「目」

さらに面白いのが、AIの頭が悪いわけではないという点です。
いくつもの検証でわかったことがあります。「長い針が12を指していて、短い針が3を指している」と文章で伝えれば、AIはちゃんと「3時ですね」と答えるのです。
つまり、考える力は正常に働いています。
問題はその前の段階にありました。
AIが画像を処理できる形に変換する「ビジョンエンコーダー」という部分が、針の角度や位置関係をきちんと保てていないのです。
たとえるなら、目が悪いまま計算しているような状態です。入り口で情報がぼやけてしまうので、そこから先どれだけ丁寧に考えても、答えは合いません。
実際、画像の解像度を大幅に上げた新しいモデルでも、時計は読めるようになりませんでした。
画質の問題ではなく、角度や空間をどう表現するかという、もっと根っこの部分の話だったのです。
理由③ 広告の時計はほとんど「10時10分」

3つ目は、AIが学んだデータのかたよりです。
AIはたくさんの時計の写真を学習しています。ところが広告やカタログに出てくる時計は、ロゴが見やすくなるという理由で、その多くが「10時10分」に設定されています。
その結果、AIは「時計といえば10時10分」というパターンを強く覚えてしまいました。
実際の時刻とは関係なく、10時10分に近い答えを出してしまう傾向があるのです。
これは、AIが時計の「しくみ」を理解しているのではなく、見たことのある形と照らし合わせているだけだということを、よく表しています。

お店でもディスプレイの時計大体10時10分になってるよね
仕事にどう活かせるか
これは時計だけの話ではありません。AIを仕事で使うときに、そのまま役立つ考え方です。
AIの得意・不得意をまとめると、こうなります。
| 得意なこと | 苦手なこと |
|---|---|
| 文章の処理 | 空間の認識 |
| 論理的に考えること | 物理的な世界の理解 |
| パターンを見つけること | 常識的な判断 |
| 大量のデータ分析 | 場面に応じた解釈 |
| コードを書くこと | 図面やグラフの正確な読み取り |
ここからひとつ、すぐ使えるコツが見えてきます。
「見る」仕事を「考える」仕事に変えてあげることです。
たとえば図面の寸法をAIに読ませたいとき、画像をそのまま渡しても精度は安定しません。でも数値を文字で伝えて計算だけ頼めば、きちんと処理してくれます。
グラフの分析を頼むなら、画像ではなく元のデータを渡す。デザインを見てもらうなら、見た目の判断ではなく構造や要素を説明してもらう。
このひと手間で、返ってくる答えの質がぐっと変わります。
「AIは何でもできる」でもなく「AIは使えない」でもなく、どこが強くてどこが弱いかを知ったうえで使い分ける。
これがいちばん大事なところです。
記事だけでは足りない部分もあります

AIの性格がわかったとして、では実際の業務にどう組み込むか。ここは一般論だけではなかなか進みません。
どの仕事をAIに任せるか。出てきた答えを誰がどうチェックするか。この「いびつさ」を前提にした流れをどう作るか。
こうした判断には、現場でAIを運用してきた経験がものを言います。自社に合った形に落とし込むなら、実務を知っている専門家と一緒に進めるのがいちばんの近道です。
まとめ
87年間解かれなかった数学の予想を216文字でくずす一方で、アナログ時計は4回に1回しか読めない。
この落差は、AIの欠陥ではなく「そういう性格」です。
大事なのは、この不思議さを「まだ不完全だから」で片づけないこと。得意な場所で使えば、人類が何十年もかけて解けなかった問題を数時間で解いてしまいます。逆に苦手な場所で無理に使えば、子どもでも間違えないことを間違えます。
AIとうまく付き合えるかどうかは、この地図を持っているかどうかで決まります。